いやいやえん

映画・DVDの感想ブログです。個人の感想なのでネタバレしています。

マジカル・ガール

【概略】
白血病で余命わずかな少女・アリシア。彼女の願いは大好きな日本のアニメ「魔法少女ユキコ」のコスチュームを着て踊ること。失業中の父・ルイスは娘の願いを叶えようとするが…。
サスペンス


.0★★★★★
「魔法少女ユキコは悲劇のはじまり。」魔法少女になりたいという願いがすべての運命を変えていく。
まず、ラスト付近で白血病の少女アリシアが魔法少女になって暗闇のアパートに現れるシーンで感極まったくらい引き込まれたのですが、説明が本当にとっても難しい映画です。
感想を一言で述べると「救いはどこにあるのか」といったところでしょうか。監督は日本の漫画やアニメ文化が大好きらしく、「魔法少女まどか☆マギカ」なんかも参考にされたとか。タイトルからは想像もできないほどブラック・ノワールです。
日本の魔法少女アニメをモチーフにしてるんですが、その興味だけで観ると色々とショッキングな事にぶつかります。非常にシビアで現実的な物語だった。序章シーンのあと、三部構成で話は進みます。ちょっと長くなりますよ。


<世界>
アリシアが魔法少女ユキコの曲に合わせて踊っていると、突然倒れてしまうというシーンから始まります。病的に痩せた少女が、日本の昔のアイドルソングみたいな歌に合わせて踊るシーンは、正直あまりにもシュール、そのミスマッチさがこの作品の世界観を表していると思います。運び込まれた病院で、父ルイスは娘の命が長くないことを知ります。娘の死という現実に動揺を隠せません。
アリシアの3つの願い事の1つに、「13歳になる」というのがあって、死に直面した少女のなんだかリアルすぎる願い事に涙が出そうになりますが、父ルイスは現実的に自分が叶えてあげられる唯一のお願い事として、「魔法少女ユキコのコスチューム」を手に入れようと決意します。ここがそう悲劇のはじまり。

コスチュームの値段は7千ユーロ(約90万円)。おもちゃ屋に売ってそうなのになんでこんな値段かというと、デザイナー印の一点ものだったからです。失業中のルイスにはとてもじゃないけど手が出ない代物。宝石店でも襲おうかと思ったその時、頭上からゲロが降ってくるのでした。


<悪魔>
時間軸が少し戻って、バルバラの話がスタート。
精神を病みぎみのバルバラは、精神科医の夫の言葉に追い詰められつつありました。「ずっと君の子守りはしてられない」などの発言で、お前本当に精神科医かよ!と正直疑わざるを得ません。一番理解してほしい相手に理解されない苦しみを、日々味わい続けていたのでしょう。支配的な夫にまさに飼われていたかのようでした。
彼女が壊れてる様子は友人の赤ちゃんを抱いた時の不適切な発言(「窓から投げたら~」)からもわかります。そのせいで夫に管理・隔離されてしまったので、鏡に額を打ち付ける有様(そして額に傷がつく)。睡眠薬を飲んだ際窓の外に吐いたら、そのゲロがルイスに直撃し「服を洗うわ」とかなんとかしてるうちに、ルイスと一夜の関係を結んでしまうのです。後日、「なにがなんでも魔法少女ユキコのコスチュームを手に入れるぉ(゚∀゚*)!」なルイスに「浮気を旦那にバラす」と脅迫されたバルバラ。
数日で7千ユーロを用意しないといけないので昔のツテを頼り、「1日だけ、(全ての)挿入は一切なし」で7千ユーロを稼ぎたいと申し出ます。どんな無茶ぶりだよ。
翌日、ある館にて車椅子の屋敷の主人にいくつもの傷跡が残る裸体を美しいと誉められたバルバラは、封筒を渡され、その封筒に書かれた言葉を覚えておくようにと言われます。バルバラが行う仕事は「その手紙に書かれた言葉を発するまでは、どんどん稼げるシステムになっている」そうです。危険な香りがプンプンしますね。
こうして、バルバラがその体と命を削って稼いだお金でルイスは魔法少女ユキコのコスチュームを買い、プレゼントします。喜ぶアリシア、でもあれあれ?なんだか落胆した様子ですよ?
思い出してください、いわゆる日本の魔法少女たちを。クリィミーマミは何を使ってアイドルに変身しますか?セーラームーンは何を使って敵を倒しますか?カードキャプターさくらは何を使ってクロウカードを封印しますか?おジャ魔女どれみは何を使って魔法を使いますか?…魔法少女ユキコは「何を」持っているでしょうか…?そう、コスチュームだけではアリシアは魔法少女ユキコにはなれないのです。なぜなら魔法を使うための「ステッキ」がないから。服だけあっても、ステッキがないと意味がないんです!
ルイスは恐る恐るネットでステッキの値段を確認します。コスチュームで90万円(7千ユーロ)です。ステッキは一体いくらするのか…。再びバルバラを恐喝します。「もっと金がいる。明後日までに2万ユーロ(約260万円)必要だ」
精神的に不安定で夫からは理解されていない。けれど夫を愛しているのです。バルバラは再びツテを頼って先日の屋敷でもっと稼げる「トカゲ部屋」に入ることになります。このトカゲ部屋なるものがどんなものかはわかりませんが、想像を絶する苦痛を要求される部屋であろうことは疑いようがありません。

何とか2万ユーロを稼いで重傷を負ったバルバラは、「ある男」のアパートの階段で倒れて、助けられるのでした…。


<肉欲>
時間軸が戻って、模範囚として出所することになったダミアンの話がスタート。
彼は序章シーンでの12歳だったころのバルバラの数学教師です。映画冒頭で、授業中に手紙を回していたバルバラを注意します(授業中の手紙の回し読みは日本でもよくある光景ですよね)。「出しなさい」しかしバルバラは手のひらの中に握りしめたメモを出す気配がない。「出しなさい」「無理です」とバルバラは言います。「持ってないから」そう言って開かれた手のひらには、メモはありませんでした。
ダミアンはもう一度書きますが数学教師です。現実的な「2+2=4」の真実は、まるで信仰のように何があっても揺るがない思考の持ち主です。しかしそこにあるはずのメモが、12歳の少女の魔法によって消え去ってしまったのです。彼の真実と信仰は揺らぎ、それが彼をバルバラ崇拝者にしたて、小児性愛者にし暴行で10年刑期と道を踏み外させたのだと思われます。
出所したあと、パズルなどをして過ごしている彼はバルバラからの電話をあえて拒否する。近づいてはいけないと本能的に知っているのだろう。
ある日、重傷を負ったバルバラを助けたダミアンは、彼女に「ある男に強姦された。夫には言わないで、あなただけが頼りなの」と言われたので、守護天使モードが発動。そこでルイスを尾行し、バーで彼に提案します。「殺されるか、ムショに入るか」。しかし殺されたとしても刑務所に入ったとしても、アリシアの面倒は誰がみるというのか。二択しかないが、とてもその条件は飲めないルイス。さらに「強姦された」という言葉を聞いて驚きます。恐喝しましたー、バルバラとも寝ましたー、しかしそれは合意の上での事だった。それを聞いて、結局、ダミアンはルイスを銃で撃ち殺します。しかし死体からは「バルバラとの情事を録音した」という証拠の携帯電話は見つからなかった。
ダミアンはルイスの自宅へと向かい、明かりを点けたところ…魔法少女ユキコのテーマ曲をかけ、ステッキを手にして衣装に身を包んだ一人の「魔法少女」が立っていたのでした。

あの格好でアリシアがルイスを待っていたということは、「パパが帰ってきたら、きっと驚くだろうな♪」というわくわくした娘心だったと思います。アリシアは無言で凛とした表情でダミアンを見つめます。この時、奇跡が起こってアリシアは本物の魔法少女となり、魔法でダミアンに勝利したら良かったのに、現実は非情。ダミアンはアリシアの視線に耐えきれず彼女を撃ち殺します。…救いはどこに?
バルバラの元へ訪れたダミアンは、ルイスの携帯を差し出します。受け取ろうと手を差しだすバルバラですが、ダミアンは渡してくれる気配がありません。「くれないの?」「無理だよ。持ってないから」魔法によって、掌から携帯が消えたという序章シーンと対比となるラストでした。

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