いやいやえん@引っ越しました!

映画・DVDの感想ブログです。個人の感想なのでネタバレしています。

ドッグヴィル

【概略】
ギャングに追われ、平和な村ドッグヴィルに逃げ込んできた一人の美しい女性を村人たちはかくまうことにする。彼女が2週間で村人全員に気に入られるという事を条件に…。
ドラマ


.5★★★☆☆
普通なら建物(壁や天井など)によって視線が遮られるところ、黒い床にチョークで線を引いただけの透明な装置(俳優達はパントマイムなどを行い、そこにドアや壁があることを示す)のために、どれほど残酷なことが隣で行われていようとも静かな日常が滞りなく進行している情景が同時に描かれ、それがまさに欺瞞と村の悪辣さを際立たせていく要素になっている。

まるで「人間の本性」をめぐる寓話のようなメルヘンチックさ、それは凄まじくグロテスクで陰惨であるものの、時折滑稽であり、残酷さすら秘める。
無事に主人公が住民に受け入れられることを願う序盤を過ぎ、とある事件が起こったあたりから一気に本作のエグさが露見してくる。
住民たちのエゴがあからさまになり、欲求を押し通す様子に人間の嫌な部分を容赦なく痛感させられる。
トム役ポール・ベタニー目当てで見た本作だったが、思っていた以上に醜悪な映画で、監督を調べてみたら、ラース・フォン・トリアー氏。ああ…(納得)。観る人の感情を逆立てる作品を作るのが巧い監督ですものね。
本作はとことんエグイ話である。
外から隔絶された村の住民達のバランスを欠いたエゴとモラルの不在。自分をかくまってくれるという村にグレースは誠意を見せて「やらなくてもいい仕事」を代わりにやることで彼らに今までになかった「恵み」を与えたに等しい。
純朴だった村人は、しだいに彼女の献身的な働きにあぐらをかくようになる。人々はグレースから与えられるものをさらに欲しがった。それは仕事に留まらず、男は満たされない性的欲求を、女は男の裏切りの報復を。醜悪さをあらわにし始めた彼らに嫌気がさしたグレースが逃れようとしても、さらに欲しがる彼らは彼女を鎖につなぎとめ、得られるものすべてを奪っていく。男は彼女を凌辱し、女は彼女に憎しみをぶつけ、子どもは彼女を笑うのだ。
悪いことやってたら罰が当たりますよを地で行ったというか、平和だった一つの村が醜い本性を表し、考え得る限りの最悪の扱いを一人の人間に与え、その罪により死をもって裁かれる…。
実は、ギャングから逃げている彼女は彼らボスの娘だったのです。一度は許そうとしたグレース。だが凄絶な怒りに、村人は乳飲み子に至るまで皆殺しされ、村は焼き捨てられ木々さえなくなった中で、犬のモーゼスが吠え立てる。最後には白線で描かれるだけだったモーゼスが実写となり、映画は終わる。
随所で、トムの腐れ持論が展開されるのですが、村の全員に彼の薄っぺらさが浸透している環境には納得(笑)。
また終盤父親とグレースとの会話の中に「傲慢」という言葉がたくさん出てきましたが、これを考えさせられました。グレースは一見良心の塊のようでしたが、傲慢だった。弱者として扱われましたが、グレースは最初から村を貧しく環境が悪いと見下していました。親切心から「手の荒れにはアロエが効くわよ」とリズに言っていた場面からもそれは見て取れます。ドッグヴィルの中では手の荒れなんか目立たなかったリズにしてみれば、綺麗な手をした女からいわれたことで、手の荒れを気にするようになったでしょうし。
そして結局は権力を行使して村自体を消滅させてしまった。映画全体から観れば、まるでソドムとゴモラのような扱いでもある。腐りきった快楽の都を、神は滅ぼした。
そう、これは宗教的話でもあった。首輪をつけられ陵辱され続けながらもグレースは逃げず耐えた。彼女の「許し」という信念のためである。そもそものキリスト教(ユダヤ教の神ヤハウェ)は、無慈悲な神である。イエス・キリストが人間の全ての罪(原罪)を被ってくれたからこそ、慈悲深く許しを与えるようになっただけ。父親はすなわち神である。悪事を働いたものはすぐに始末すべきだと言う父親と、許してやるべきなのだと語る娘。
しかし…「許す」という姿勢自体が傲慢なのではないかと問いかける父親。結局グレースは父親の権力で、村全体を焼きつぶすことを決意するのである。これは、ゴルゴタの丘で神(父親)がイエス(グレース)に「この世界を滅ぼしてしまおうか?それとも許してやるというのか?」と選択肢を与え、グレースは前者を選んだということなのだろう。
復讐と考えるとスッキリするのですが、それだけではないモヤモヤが残るのがとても気持ち悪い。映画の中で、最も吐き気がしたのは「本当はこんなことしたくないんだ」という都合のいい言い訳でした。
映画としてはとてもよくできているが、もう一度見る精神力はないです…。
あー、トムのグレースを抱こうとした後半の身体をくねらせる腰使いは良かった(笑)