いやいやえん@引っ越しました!

映画・DVDの感想ブログです。個人の感想なのでネタバレしています。

トム・アット・ザ・ファーム

【概略】
トムは、交通事故で死んだ恋人・ギョームの葬儀に出席するために、彼の実家の農場に向かう。しかし、ギョームの母はトムの存在を知らず、息子の恋人はサラという女性だと思っていて…。
サスペンス


.0★★★★☆
グザヴィエ・ドラン監督作品。彼がこれまでに監督した映画は、面白いうえ演出も巧いし、まるで弾けるようなエネルギーが張っていてどれも好きなのですが、本作で初めてサスペンスというジャンル映画に挑戦したようです。思わず身構えてしまうような張り詰めた空気が漂う劇中は、痛々しくも官能的で、やっぱり「ドラン…恐ろしい子!」なんですよね(笑)
亡き恋人の兄フランシスにあんなに暴力を振るわれて、どうしてトムは真実を暴露しないのだろう、逃げ出さないのだろう…そう思っていたけれど、そうじゃないんだよね。抵抗しないのは暴力への恐怖ではなく、ギョームの影をフランシスの中に見つけたから、なんだよね。
高圧的で暴力的なフランシスの理不尽な態度を見ていると嫌悪感が膨れあがりますが、徐々に登場人物たちの背景がわかるようになります。
多分、フランシスは母親からの抑圧に加え、自分の性的志向に対しても抑圧を感じている。だから、フランシスがトムの首を絞めるシーンやトムとフランシスがタンゴを踊るシーンは、激しい抱擁を交わし熱いキスを重ねる代わりに、とても官能的に映るのだろう。
トムはフランシスに囚われていたけど、フランシスは母に囚われていて、その母もまた古い因習のこの地域に囚われていてってことなのかもしれません。ギョームだけが自由で、魂までも自由になった。
愛し方には様々な形があり、トムもギョームもフランシスも、お母さんも、サラ役の女性も、誰もがその中でもがき続けていることを感じさせる。
またトムはバーでフランシスの過去話…酒場でよそ者の若い男が「ギョームに関する微妙な噂」をフランシスに告げた途端、男性の口を切り裂いた話を聞くのですが、最後ついに農場を出たトムは、「お前が必要なんだ」と叫ぶフランシスを尻目に逃げ出し、立ち寄ったガソリンスタンドのレジの向こうで洗車している男性の口に裂けた傷があるのを見て、はじめてうっすらと涙を流すのだ。
冒頭のシーンでトムはギョームの死に対して出来ることはギョームの代わりを見つけることだと紙ナプキンに滲む青いインクで書くんですが、「泣くことが出来ない」とも書いていました。
原作は同名の戯曲らしい。信号が青に変わるのとシンクロして、曲が終わる演出がまた小憎い。ただのサスペンスに留まらないドラン監督の類い稀な感受性と才能に、目が離せない。